Off Course (from album 'ワインの匂い', 1975)
たとえ君が目の前で
ひざまづいてすべてを
忘れてほしいと涙流しても
僕は君の所へ二度とは帰らない
あれが愛の日々ならもういらない
愛に縛られて動けなくなる
何気ない言葉は傷つけてゆく
愛のない毎日は自由な毎日
だれも僕を責めたりできはしないさ
「恋愛の自由」という言葉と「自由な恋愛」という言葉がある。
どちらも同じようなことをいっているようだが、よく考えると
この2つの言葉は全く違う。「恋愛の自由」とは、いろいろな
条件に関係なく誰かと誰かが愛し合えることだが、「自由な恋愛」
とは、1つの愛にとらわれずに愛し合う相手を代えていけることである。
つまり「恋愛の自由」は愛し合う自由を、「自由な恋愛」は別れる自由を
意味してる。しかし恋愛自体に自由があるわけではない、愛し合うという
ことはお互いの自由を捨ててお互いに相手を拘束し、触れ合う中で幸せを
得ることなのだから。
自由になるということは孤独になるということ。
だが、愛が必ずしも幸せでないように、孤独が必ずしも不幸なわけではない。
小田和正は、愛が終わった後の日々を「愛のない毎日は自由な毎日」といい、
「だれも僕を責めたりできはしないさ」と歌う。
当たり前のことだが、愛し合って別れたとしても誰かにとやかく言われる
筋合いはない。だが、スターミュージシャンとファンという擬似恋愛関係の
中で「責め」られたミュージシャンがいる。ボブ・ディランである。
1962年にデビューしたディランは、63年に 'Blowin' In The Wind' を歌い、
フォークのスターとなり、理想主義的なフォークミュージック・ファンに
「愛」され「崇拝」されるようになるが、1年後の64年5月に発表した
アルバム "Another Side of Bob Dylan" では、もうディランはそうした
フォーク・ファンの「愛」に嫌気がさしてきていることを告げている。
特に最後の曲 'It Ain't Me Babe' では次のように歌い、
フォーク・ファンの「愛」に自分が合わないことを強調している。
You say you're lookin' for someone
Who will promise never to part,
Someone to close his eyes for you,
Someone to close his heart,
Someone who will die for you an' more,
But it ain't me, babe,
No, no, no, it ain't me, babe,
It ain't me you're lookin' for, babe.
なぜディランがファンに嫌気がさしてきたのかといえば、
ディランの音楽がエレキギターを取り入れたバンドサウンドへの変化を
始め、歌詞の内容も社会的なものから個人的なものに変わっていくこと
にファンが反対し、非難し続けていたからだ。
そして65年のニューポート・フォーク・フィスティバルで、
ディランはフォーク・ファンのブーイングの荒らしの中、
'It's All Over Now, Baby Blue' と歌ってステージから降りた。
ディランは彼を「愛」するフォーク・ファンに別れを告げたのである。
Leave your stepping stones behind, something calls for you.
Forget the dead you've left, they will not follow you.
The vagabond who's rapping at your door
Is standing in the clothes that you once wore.
Strike another match, go start anew
And it's all over now, Baby Blue.
「愛のない毎日は自由な毎日」その日々の中でディランは歌う
I wish that for just one time
You could stand inside my shoes
And just for that one moment
I could be you
Yes, I wish that for just one time
You could stand inside my shoes
You'd know what a drag it is
To see you
一度でもいいから俺の靴の中身になって
一瞬でもいいから入れ代わってみないか
一度でもいいから俺の靴の中身になってみたら
あんたがどれだけ俺の足をひっぱってるかわかるだろうよ
※これは2003.7.21、Trans Comic Xpressに投稿したものです。