2009年04月27日

知覚の扉?

動物はみな自分の必要なものを見る目を持っている。いつも光の届かない土の中に
いるモグラは目が退化しているが、それはモグラが目を必要としてないからだろう。
人間には網膜に錘体細胞という細胞が3つあって赤、青、緑の三原色を感じ取るら
しい。猫には錘体細胞が青と緑の2つしかないようなので赤は知覚できない。
猫はもともと夜行性なので、その目は人間の1/6の光で物が見え、ものの動きに反
応する動体視力が発達している。暗いところで獲物を探す猫にとって色はあまり重
要な情報でないのだろう。それに対して鳥類は錘体細胞が4つあって色覚が発達し
ているらしい。空から小さい虫などを見つけるのに色が重要になるのかもしれない。

しかし錘体細胞はあくまで色を感じ取るだけの器官だ。人間が見る複雑な色は実は
錘体細胞で感じ取った色の情報を脳が合成しているもの。つまり色は物にあるので
はなく、脳が情報を元に作ったイメージに付けらたものなのだ。だから色が重要で
なければ、たとえ色を知覚はしても脳内で処理して合成したりしないかもしれない。
(すでにここに価値判断がある)

ちょっと前、去年の12月のニュースになるが、京都にある国際電気通信基礎技術研
究所という所で、脳の活動パターンからその脳が見ている=作っているイメージを
コンピュータで再現する事に成功した、というニュースが話題になった。つまり脳
がどうやって視覚情報を映像化するか、その作業手順がわかったという事だ。今は
まだアルファベット1文字を再現する事ぐらいしかできないようだが、この技術が
進めば、人が寝ている時に見ている夢を、外から見る事も可能になるという。この
事からもわかるように、人が見ているのは、外界そのものではなく、脳が加工編集
した映像だという事だ。だから目が見える状態でも、脳の映像化機能に障害が起こ
ると、たぶん物は見えなくなる。そうすると夢も見れなくなるのだろう。

ところでジョン・ロックは、人間が概念を形成するには、外界からの刺激を受け取
る「感覚」と内的な「反省」能力が必要だとした。さらにカントになると、その
「感覚」と「反省」には先験的な形式があるという事になる。(たとえば「感覚」
には時間と空間というような直観形式が。「反省」には矛盾律が。)
そしてカントは、人間が認識し得るのは「感覚」が与える現象についてのみだとし、
神や魂や自由については「感覚」から得られるものではないので、認識の対象外の
もの、「物自体」とした。つまり認識範囲を限定した訳だ。
(ちなみにスピノザは『エチカ』の冒頭で、神を絶対に無限で、永遠で、自由な実
 体と定義する。定義するという事もまた認識や証明の対象ではないという事だ。)

これがニーチェになると
 『私たちが意識するすべてのものは、徹頭徹尾、まず調整され、単純化され、図
  式化され、解釈されている』(『権力への意志』の477項)
という事になり、今度は「感覚」と「反省」の性向、ある傾向が問題になって来る。

さらにニーチェは『権力への意志』の503項では
 『認識の全装置は一つの抽象化・単純化の装置であり−認識をめざいしているの
  ではなく、事物をわがものにすることをめざしている。』
といい、同505項では
 『私たちは精選された知覚に対してのみ感官をもつのであり−それは、自己保存
  のために、私たちがたよらざるをえないような知覚である。意識は、意識が有
  用であるかぎりにおいて現存する。すべての感官知覚が価値判断(有用と有害
  −したがって快と不快)でもって全面的に遂行されているということは、疑う
  余地がない。個々の色彩は同時に私たちにとっての或る価値を表現している
  (中略)
  だから異なった色彩に対する昆虫の反応もまた異なる。すなわち、或るものは
  この色を好み、他のものはある色を好む、たとえば蟻。』
という。

ニーチェがここで暴こうとしているのは認識の動機、そこにある自己保存への欲求
である。

猫の目の情報↓
http://www.kao.co.jp/pet/cat/science/scat/scat01.html
鳥の目の情報↓
http://www.parof.jp/ParrotLife/Others/Sight/
国際電気通信基礎技術研究所の情報↓
http://www.atr.co.jp/html/topics/press_081211_j.html

「知覚の扉が清められたなら物事はありのままに無限に見える」
これは今ではドアーズ、ハックスリーで有名なウィリアム・ブレイクの詩の一節。
posted by 浅谷龍彦 at 23:40| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 思索(自由) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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